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2025年、7月第3週の編集人コメント NEW

 

「7. Instagram Google統合、旅行マーケティングのゲームチェンジ

この記事を要約すると次のようになる。

2025年7月10日、Instagramはプロアカウント(観光業者を含む)の公開投稿をGoogle検索にインデックス化させることを発表。これにより、Instagramは「ウォールドガーデン(閉じたSNS)」から「検索可能なコンテンツの宝庫」へと進化し、特にビジュアルが重要な旅行業界のマーケティングにとって大きな転換点となる。

旅行業界(観光業者)にとっては、SNSとSEOを統合したコンテンツ戦略の構築が不可欠となる。この統合は単なる技術的変化ではなく、マーケティング戦略の前提を根底から覆す「ゲームチェンジャー」と位置づけられる。

 

ではなぜ、MetaはInstagramのウォールドガーデンを解放し、ソーシャルから検索流通へと踏み込んだのか? なぜライバル関係にあるMetaとGoogleが手を組んだのか?

 

その背景には、Googleからの新規トラフィック流入によってInstagram全体の広告媒体価値が向上するという期待がある。加えて、TikTokとの競争上も、Google検索という「外部発見チャネル」を味方につけることは大きなアドバンテージとなる。

Instagramのプロアカウント投稿者にとっても、自らのコンテンツがGoogle経由で可視化されることで、投稿の広告宣伝価値が上昇し、直接予約(直販)につながるメリットが生まれる。特に小規模サプライヤーにとっては、検索露出の機会を得る貴重な手段となる。

一方、Googleにとっては、AI検索時代に向けた準備として、Instagramのリアルで視覚的な旅行コンテンツが極めて魅力的だったと考えられる。

 

では、なぜこれが「ゲームチェンジ」なのか?

それは、旅行のコンシューマージャーニーにおける「インスピレーション」(旅への誘い)と「アクション(予約)」が一気通貫で結びつく可能性を持つからだ。

  • 「見て憧れる」(=インスピレーション) → Instagramの役割

  • 「調べて決める」(=検索・比較) → Googleの役割

これまでは分断されていたこの2つが、今回の統合で1つの導線として機能する。
その結果として、これまで「ただのビジュアル体験」にとどまっていたInstagram投稿が、「今すぐ行きたい・予約したい」という購買行動の起点になり得る。これは、マネタイズが難しかった旅マエ段階の購買ファネルのコンバージョンを高める、構造的変化である。

 

さらに、従来のGoogle検索結果は、大手OTAやチェーンホテルが資金力と技術力で支配していた領域だった。しかし今回、Instagramが、Googleの検索インデックスに参加することで、小さなB&Bや個人経営の体験提供者でも、魅力的な写真とストーリーがあれば検索上で発見される可能性が開かれる。

SEOや広告に頼らず、「感情で伝わる」ビジュアル投稿が武器になる。これも、旅行業界におけるマーケティング構造のディスラプション(破壊的変化)であり、まさにゲームチェンジと言えるだろう。

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7月14日

1. aiOla、音声 AIツール開発でUAから資金調達

2. DL、Fetcher AI価格設定の初期結果に満足

3. 業界リーダーたちが、電子認証とAIエージェントの未来を語る    閲覧者数第3位

7月15日

4. 訪問者データ、旅行マーケティング洞察に変える

5. インドにおける電子決済とフィンテックの進化

6. Rydoo、AI駆動 Semine 買収

7. Instagram Google 統合、旅行マーケティングのゲームチェンジ   閲覧者数第1位

7月16日

8. 旅行の売り手、コンバージョン促進のために柔軟性と保護に目を向ける

9. Uber、ロボタクシー世界展開で Baidu と提携

10. 新興企業の舞台:Pink Notebook、ビジュアルファーストとソーシャルの計画提供

11. Accor テックチーフ、体験・マインドセットのシフト・システム分断を語る   閲覧者数第4位

7月17日

12. TravCorp、Specialist Holidays Group 買収で豪華オーダーメイド市場強化

13. Travel Curious、Redeam 買収で体験プロバイダーにサービス提供強化

14. 欧州ホテル、Airbnb のオーバーツーリズムに断固反対       閲覧者数第2位

7月18日 

15. PhocusWire Daily 週間トラベルテック記事のまとめ

16. Blockskye、拡大と決済プロダクト開発で1,580万ドル調達

17. 欧州レンタル市場に影響を及ぼす逆風と追風

18. Wyoming、TVキャンペーンで旅行者興味を9倍にした方法     閲覧者数第5位

2025年7月第2週の編集人コメント

今週もAI関連の話題が目立った。表題に「AI」と記されていない記事でさえ、その多くが何らかの形でAIに言及している。まるで日経新聞が『米国大統領トランプ』の記事で紙面を埋め尽くすかのようだ。

とりわけ以下の3つの記事についてコメントしておきたい:

 

  • 「2. 旅行会社、レジリエンス構築4つの方法」

  • 「3. ホテル経営者のためのAI:HITEC 2025で聞いた話」

  • 「12. 旅行者、観光旅行計画でますますAI使用」

 

「2. 旅行会社、レジリエンス構築4つの方法

旅行業界が次に備えるべき4つのレジリエンス強化策が紹介されている。パンデミックを経た旅行業界は、いま再び経済不安や顧客期待の変化といった新たな不確実性に直面している。コスト増・需要減のなかで、単なるコスト削減では持続可能性がなく、「変化への適応力=レジリエンスの再構築」が必要とされている。

  1. 業務(オペレーショナル)
     デジタルツインや自動化で柔軟に対応。例:空港運用、ホテルの省力化。

  2. 収益(コマーシャル)
     AIで需要や顧客感情を分析。動的価格や新たな収益源(例:体験)に対応。

  3. 人材(ピープル)
     感情モニタリングやAI活用で働きやすさと生産性を向上。94%が人材戦略をAI時代に対応済。

  4. 技術(テクノロジー)
     自律型AIエージェントで予約や業務を最適化。クラウド主権やセキュリティの強化も課題。

​(レジリエンスとは、困難や逆境に直面した際に、それを乗り越え回復する力)

 

記事では、AIが価格設定や業務効率だけでなく、人材育成やセキュリティ強化にも活用されている点を指摘している。今後は「変化に耐える力」ではなく、「変化に合わせて自らを変える力」が重要だという主張である。

しかし、このAccentureの記事では、旅行業が直面するAI主導の「流通革命」——すなわち、旅行商品が“AIエージェント経由”で売買されるという構造転換——には触れられていない。
真に必要なレジリエンスとは、「AIに選ばれる存在」になるための再設計=流通上の生存戦略ではないのだろうか。

“流通革命”に言及すべき理由は、以下の構造的変化がすでに進行しているからである:

  • AIエージェントによる「検索不要な旅行購入」(例:Google Gemini、ChatGPT、OTAアシスタント)

  • 従来の予約サイト(OTA)を介さず、AIが直販を選ぶルート形成

  • 旅行者の「行動履歴×文脈」に基づく自動提案と即時取引

つまり、「どのチャネルで誰が売るか」が根底から変わり始めている。流通革命に対するレジリエンスについても、この記事では触れて欲しかった。

 

「3. ホテル経営者のためのAI:HITEC 2025で聞いた話

AIはHITEC 2025で最大のトピックであったが、ホテル側は導入に慎重な姿勢を示している。その背景には「過去の技術バズワードへの懐疑心」や、「AI理解の不足・準備不足」があるという。

ホテル業界におけるAI導入は、本質的には“新しいスタッフを迎える”ことに近い。小さな成功体験の積み重ねと、正確なデータ整備が鍵になるという指摘は重要である。

そして、次のような もっと重要な指摘もある:

「・・・この調査結果を考慮して、BCGは、ジェネレーティブAIが『従来のアグリゲーターを迂回』してユーザーを関連するオファーに誘導することで、実際に『旅行会社に“実存的な脅威”をもたらす』可能性があると予測しました。
『変化のペースは依然として不確実ですが、企業は適応し始めるべきです』と報告書は述べています・・・」

さらに、Sabre Hospitality社長のScott Wilsonはこう述べている:

「AIが『画期的な変化』をもたらすという一般的な理解があります。これはいくら強調してもしすぎることはありません。おそらくこれは、90年代にインターネットが大きなものになって以来、ホテル経営者がゲストの関与について考える方法において最も変革的な変化です」

 

これほどの強調がなされているにもかかわらず、業界からは今ひとつ“危機感”が感じられないのはなぜか。

  • 既存構造の中で事業継続ができていることへの安心感

  • 「ツーリズムは人と人との体験」という観念の根強さ

  • 過去の成功体験への執着

  • 不都合な事実を直視したくないという感情

こうした心理が業界に蔓延しているのではないか。

検索される時代は終わり、AIに指名される時代が始まっている。

 

「12. 旅行者、観光旅行計画でますますAI使用

世界の旅行者がレジャー旅行計画にAIを活用し始めている。米・英・独・仏ではGenAIの利用率が数ポイント上昇しているが、AIの回答を「完全に信頼している」と回答したのは3割未満である。

それでも、旅行サイトにGenAIチャットを期待する声は多く、約1/3の旅行者が「AIに予約を代行してほしい」と回答している。

 

この記事は、以下の2点を強調している:

  • AIと人間のバランス設計の重要性

  • AI時代に“見つけられる存在”になることの必要性

もはやAI導入は差別化の手段ではなく、「企業としての“生存条件」となっている。

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7月7日

1. スクロールからスーツケースまで:欧州新旅行者を刺激するもの

2. 旅行会社、レジリエンス構築4つの方法

3. ホテル経営者のためのAI: HITEC 2025で聞いた話

7月8日

4. レンタルプラットフォーム Spacest.com、かつて営業停止 Homelike 買収

5. 15Below、統合旅客通信プラットフォーム構築で Airport AI 買収

6. ライアン航空. Michael Cawley、テック投資とAIフィロソフィー語る

7月9日

7. Sabre、ホスピタリティ事業11億ドル売却完了

8. 新興企業の舞台:Kismet、ホテルに会話型検索

9. 注目CEO、Apaleoの Uli Pillau

7月10日

10. 日本でのオンライン旅行の書き換え

11. Indigo Ventures の最初の投資

12. コネクティビティ成功の進化する定義に関する旅行「配管工」

13. 旅行者、観光旅行計画で ますますAI使用

7月11日

14. 海外旅行eSIMプロバイダー Airalo、2.2億ドル調達

15. 豪華旅行のロングテールに注目

16. 欧州ホテルAIに食指、しかしギャップ存在

17. 旅行発見に、ソーシャルメディアとAIがどう協業するか

2025年 6月第5週〜7月第1週の編集人コメント

「6. 航空会社顧客エンゲージメント最適化:全タッチポイントでパートナー統合」の記事の要約は次のとおりである。
 

航空会社は旅全体を通じた顧客体験の向上に注力しており、各タッチポイントで多様なパートナーと連携することが重要とされている。予約前から到着後まで、技術とサービスの連携によって利便性を高めることで、付帯収入(アンシラリー)やロイヤルティ向上にもつながる。成功の鍵は、革新性と顧客志向を持つパートナー戦略にあるという。

さらに、いわゆる「旅マエ・旅ナカ・旅アト」を、ジャーニーマップ上の「旅行検討→予約→出発前→空港→機内→到着後」といった6つの主要段階に区分し、それぞれの段階における体験最適化が重要だとしている。その実現には、OTA、空港、通信、ケータリング、保険、荷物配送など、多様な業種との連携が不可欠であると述べている。

しかし、業界で最も技術的負債(technical debt)が大きい航空会社を取り上げ、顧客中心の変革を説くのは本当に妥当なのだろうか。
IATAが推進する「リテール革命」とは、実態としてはOfferとOrderを軸とするシステム刷新が中心であり、PhocusWireの記事が言及するようなマーケティング視点からのビジネスモデル改革は、優先順位としては後回しにされているように見える。1970年代に開発されたレガシーの予約システム(PSS:Passenger Service System)は、ATPCO、GDS、BSP、PNR、EMD、ETなどに分断されており、柔軟なUXやリアルタイム対応に不向きである。この構造の見直しと、それに伴うGDSフィーなどの流通経費削減が、まずもって狙いとされている。

そもそも航空会社は、オンラインWebサイトへのアクセスが非常に多いことで知られ、さらに航空券の購入が旅行者のコンシューマージャーニーの起点となることが多いため、アンシラリー販売においては他業種にない優位性を持つ。加えて、IATA加盟航空会社が300社程度と競争が比較的限定されていることもあり、オンライン直販比率も高い。こうした背景を考えると、「PRとペルソナが重要だ」といった顧客中心主義的マーケティングの主張は、必ずしも腑に落ちるものではない。今求められているのは、何よりもまず、遅れたレガシーシステムの抜本的な刷新であるはずだ。

とはいえ、PhocusWireが指摘するように、顧客体験の深化やロイヤルティの強化、さらには付帯収入の拡大といった観点から見れば、ペルソナ設計やブランド価値に基づくPRの役割にも一定の意義はある。特に競争が激化する市場や、若年層を中心とした新しい旅行者層においては、企業のストーリーテリングや共感を生む発信が差別化の要因となる可能性はある。


結局のところ、レガシー刷新は最優先課題であるにしても、それだけでは顧客の心をとらえることは難しい。顧客体験と企業価値の向上には、システムとブランド戦略の両輪が必要なのだ。

結局のところ、レガシー刷新は最優先課題であるにしても、それだけでは顧客の心をとらえることは難しい。顧客体験の向上と企業価値の最大化を実現するためには、システム基盤の近代化に加え、この記事が指摘する旅全体を見通した設計思想や組織横断的なアプローチが不可欠であるということなのだろう。

 

この他「20. SEOは去った:旅行マーケティングがどのように変化するか」に注目したい。

生成AIの登場により、従来のSEOは効果を失いつつあり、旅行業界もその現実に直面している。今後はAIエージェントが新たな集客チャネルになる可能性があり、企業はその準備が必要だと言っている。オーガニック検索からの流入が減る一方で、AIの回答に「どのブランドが取り上げられるか」が重要になる。広告の焦点もキーワードではなく「ユーザーの意図」や「ペルソナ」へとシフトしつつある。

Googleもこの変化に対応しており、AIによる検索結果(AI Overviews)にもすでにスポンサーリンクを挿入。今後も有料検索(Paid Search)は形を変えて残り続けると見られており、マーケターは広告戦略の再設計を迫られている。

 

以前PhocusWire記事が触れていたSEOの代替「GEO(Generative Engine Optimization)」については、一言も言及されていない。GEOはむしろ「具体的対応策」に分類される技術論であり、本記事の全体的視座とは若干異なるためなのだろう。それに、GEOは業界標準のマーケティング戦略としてはまだ未成熟の段階であるためなのだろうか。

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6月30日

1. Travello、米国拠点旅行技術プロバイダー TWAI が買収

2. Inspirato が Buyerlink と合併、One Planet Platforms 形成

3. ホスピタリティテクノロジーがデジタルアクセシビリティをサポートする義務を持っている理由

4. 航空会社幹部たち、データ断片化・AI戦略・消費者行動 を議論        閲覧数第1位

7月1日

5. Tiqets、2,500万ユーロの借換え融資受ける

6 航空会社顧客エンゲージメント最適化:全タッチポイントでパートナー統合

7. レポート - 旅行の国境越え支払:リスク、報酬、今後の道

8. FBI、航空会社サイバーセキュリティ攻撃 警告

9. ボラティリティの中で機敏で信頼を築くことに関する専門旅行ブランド

10. 観光産業がアトラクションの過密を管理する方法             閲覧数第3位

7月2日

11. AIで旅行検索を再考

12. 米国レンタカー:ライドのクーリンオフかリセットか

13. StaySaavy、割高ホテル宿泊料金回避

14. Ant International、AI駆動旅行サービス Alipay + Voyager 発表      閲覧数第5位

15. ホスピタリティ技術リーダー、投資・既存企業・AI を語る         閲覧数第4位

7月3日

16. 移行期のロイヤルティ:適切な報酬と補助が重要な理由

17. PhocusWire の今週のトラベルテック記事のまとめ

18. TravelTechShow、Trailblazer Awards に Acai 指名

19. 投資家、「過小評価されている」Tripadvisor Group 株9%取得

20. SEOは去った:旅行マーケティングがどのように変化するか         閲覧数第2位

7月4日

​米国独立記念日により祝日休刊

2025年6月第4週の編集人コメント

「8. ホテル、価格コントロールで二次的OTAに取り組む」では、セカンダリーOTAによる卸売レートの横流し(いわゆる「2次おろし」)が、ホテルの価格コントロールを弱めていることが指摘されている。その対策として「自社チャネルでの予約比率を50%以上に高めること」が有効とされるが、直販比率の向上は容易ではない。最大手のMarriottですら、自社予約比率は約40%程度にとどまっているとされる。
結局のところ、こうした価格の逸脱は需給の強弱によって左右される側面が大きい。Parity Clause(価格同一性条項)についても、たとえ欧州で規制が進んでいるとしても、実際の価格主導権は集客力とブランド力を持つ側に残り続けるのだろう。

 

「18. オンライン旅行ベテランたち、旅行技術進化とその次を語る

オンライン旅行業界のベテランたちは、AIがもたらす変化はインターネットの登場以上に大きなインパクトを与えると語っている。技術は進化を続けているが、消費者が求める「信頼」や「記憶に残る体験」といった本質的な価値は変わらないという点にも共通の認識があった。

 

なかでも印象深かったのは、eDreamsの共同創業者で元CMOのMauricio Prietoの発言である。彼はこう述べている。

「たとえばAmazonのように、トラックや物流インフラといった物理的ネットワークを持つ企業は、完全にデジタルなビジネスに比べて模倣されにくい。彼らには強固な“堀”がある。Amazonが築いた極めて複雑なインフラは、そう簡単には代替できない。一方で、デジタルに特化したサービスは、新たなツールが登場した瞬間に置き換えられるリスクを常に抱えている。」

 

実際、Amazonは他社が容易に真似できない強力なロジスティクス・インフラを武器にし、それが競争優位の源泉となっている。一方で、OTAにはそのような物理的資産はない。これまでは、膨大な在庫情報を集約・比較・提示する機能が旅行流通における中核的な強みだった。しかし、AI時代に入り、その機能すらプラットフォームや新興ツールに代替されつつあり、従来の強みがどこまで通用するのか、不安は拭えない。

 

物理的インフラを持たず、デジタル領域での勝負を強いられる以上、OTAは新たな技術による代替リスクと常に向き合わなければならない。この現実を前提にすれば、差別化の鍵は「効率」や「自動化」だけでなく、「信頼」や「人間的な接点」にあるといえる。Prietoの言う“摩擦” —— たとえば丁寧な相談対応やパーソナライズされたサポート —— は、むしろ顧客との関係性を深める無形の資産として機能する可能性がある。

つまり、旅行業においても、すべての摩擦を排除するのではなく、戦略的に “残すべき摩擦” を見極めることが、AI時代における持続的な競争力を生み出す鍵となると言っている。

 

 

「24. 旅行AI脆弱、敵対的トレーニングで修正できるか?

旅行業界におけるAIは依然として脆弱であり、その対策として「敵対的学習(adversarial training)」の導入が不可欠だと本記事は主張している。旅行は例外や特殊ケースに満ちた複雑な領域であり、従来のAIでは幻覚(hallucination)が生じやすい。医療や金融といった他業界ではすでにこの手法の導入が進んでいる一方で、旅行業界は対応が遅れている。

敵対的学習とは、AIにあえて例外的で判断の難しいケースを与えることで、モデルの耐性と信頼性を高める訓練方法であり、旅行のような不確実性の高い環境に特に適している。精度と信頼性の高いAIを実現するには、単にモデルを大型化するのではなく、こうした訓練手法を戦略的に取り入れることが重要だと結論づけている。

 

本記事は、敵対的学習の基本を理解するうえで有益である一方で、それ自体が提示する情報の正確性についても、なお慎重な見極めが必要だと感じさせられた。

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6月23日

1. Companjon、Phocuswright Europe Launch Pitch 

2. 2025年欧州旅行者感情、シンプル・検索・ソーシャル

3. MakeMyTrip  26億ドル調達、Trip.com Group から株式買戻   閲覧数第6位

4. 洗練詐欺が増加:旅行ブランドが信頼を確保する方法       閲覧数第1位

6月24

5. Navan、米国で機密リスト申請

6. Expedia Group の開発必要なプロダクト

7. Duetto、旅行業界ベテラン Alex Zoghlin をCEOに任命

8. ホテル、価格コントロールで二次的OTAに取り組む        閲覧数第2位

6月25日

9. Phocuswright Europe 2025 Launch イノベータインタビュー Maya

10. B2B決済のためのバーチャルカードの威力

11. Schroder. Fund、Elevation Capital から Ixigo 買収

12. 新興企業の舞台:Whereo、体験によるホテルの増収支援

13. AI旅行計画 Mindtrip、モバイルアプリ立ち上げ

14. 自己主権型IDを持つ「シームレスな」旅行に向けて進歩する    閲覧数第3位

6月26日

15. レポート- 収益の可能性を解き放つ:戦略的投資の必要性

16. Revenue Analytics、RMS企業 Climber 買収

17. Lighthouse、ホテルにConnect AI ソリューション導入

18. オンライン旅行ベテランたち、旅行技術進化とその次を語る

19. ホテル、AIプラットフォーム可視性どのように考えるべきか    閲覧数第4位

6月27日

20. フェリー会社がAI旅行計画についてどのように考えているか

21. PhocusWire の週間トラベルテックのまとめ

22. Chatlyn、800万ドル調達でホテルと宿泊客の会話改善

23. Sonder 共同創業者、Marriott 合併完了で退社

24. 旅行AI脆弱、敵対的トレーニングで修正できるか?        閲覧数第5位

2025年 6月第3週の編集人コメント

 

今週注目すべきは「2. Mary Meeker AI Trends Report: 旅行業界への7つのポイント」だ。Meekerといえば、1995年から2019年にかけて毎年発表していた「Internet Trends Report」で「インターネットの女王」と呼ばれた著名なベンチャーキャピタリスト。今回のレポートはそれ以来、6年ぶりの復帰作である。

彼女の新レポートには、旅行業界への影響として次の7項目が挙げられている:

  1. 検索は変化している(Search is changing)

  2. ホスピタリティの自動化(Automation in hospitality)

  3. エージェント時代(The Agentic era)

  4. 支配的な立場にある主要OTA?(Major OTAs in a dominant position?)

  5. Z世代へのマーケティング(Marketing to Gen Z)

  6. 自律運転車(Autonomous cars)

  7. サイバーセキュリティのリスク(Cybersecurity risks)

 

このリストだけを見ると、既に多く語られてきたテーマばかりであり、新鮮味には欠ける印象を受ける。Meekerだからこそ、何かしら新たなトレンドを提示してくれると期待したのだが……。もっとも、AIが本格的に商用フェーズに入ってからまだ2年足らずであることを考えれば、見解や予測が似通うのも当然かもしれない。

とはいえ、このレポートには重要な価値がある。AIの急速な進展を体系的に整理し直し、膨大なデータと図表を通じてその意味を可視化している点は、かつてのInternet Trends Reportの再来とも言えるだろう。

 

旅行業界への7つの視点の中で、最も気になったのは「4. 支配的な立場にある主要OTA?」である。Meekerは、大手OTAの優位性について次のようなことを述べている――「豊富な在庫、信頼性の高い顧客基盤、長年にわたる効率的な運用と高いコンバージョン実績、さらに自社AIエージェントの先行開発。これらが、AI時代においても彼らの優位性を支える」。

 

しかし、見出しに「?」が付されている点を見逃してはならない。このクエッションマークが示すのは、その支配的地位が未来永劫続くとは限らないという含意だ。AIエージェントを軸とした新興プレイヤーが台頭する中で、いかに巨大なOTAといえども、市場シェアを侵食され、中長期的には主導権を失うリスクがある ―― Meekerはそうした可能性も示唆している。

 

これは、先週取り上げた「4. 旅行業界、エージェンティック・コマース準備整っているか」と通底する視点でもある。誰がAI時代の「旅行の入り口」を握るのか。支配構造が再構築されようとしている今、その問いがますます重要になってきている。

 

「旅行の入り口」とは、まさに 「旅行の起点=ファネルの最上部(Top of Funnel, TOFU)」 にあたる 「旅への誘い」や「インスピレーション」の段階 を指す。SNS、ブログ、ガイドブック、友人の話などがこれまでの「入り口」だったが、 AIエージェントが、この位置を占め始めているのが現在の転換点である。これまで「入り口」をマネタイズするのが極めて難しいとされてきたが、生成AIの登場によって、この状況がガラッと変わるかもしれない。

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6月16日

1. Allianz、Phocuswright Europe 会議でEMEAのPeople’s Choice賞 受賞

2. Sabre Hospitality、AIを予約エンジンに拡張

3. Mary Meeker AI Trends Report: 旅行業界への7つのポイント          閲覧数第2位

6月17日

4. DerbySoft、フライト・テクノロジー・ソリューション立ち上げ

5. Exoticca、AI駆動ソフトウエア発表

6. Greg O’Hara、AIが時間を解放し、NDCが起こることを望んでいる       閲覧数第1位

6月18日​​

7. 旅行決済の未来

8. Agilysys・Duetto・Zucchetti North America・ホスピタリティ、HITEC 2025

9. 旅行ブランドがロイヤリティで失敗する場所                 閲覧数第5位

10. 法人旅行におけるAI進化の役割                       閲覧数第4位

6月19日

Juneteenth 米国祝日のため休刊

6月20日

11. Phocuswire Daily 週間トラベルテック記事のまとめ

12. ホテル直予約優先なるもデータ明確さ欠如

13. Visit Group、ホスピタリティテック GODO 買収

14. 抗議拡大下、旅行業界が観光リバランスにどのように取り組んでいるか     閲覧数第3位

​2025年 6月第2週の編集人コメント​

Phocuswright Europe Conferenceが、6月10日~13日、バルセロナで開催された。今週の記事の多くが、この会議の模様を伝える。もちろんトラベルテックのAIが、この会議の主題となっている。(今週の記事で「AI」は227回引用されてる。記事数は20なので、1記事に平均約3字の「AI」が使われている。

 

今週の閲覧者数最大の記事「4. 旅行業界、エージェンティック・コマース準備整っているか」もAI関連だ。これが、次のようなことを言っている。

旅行業界に「Agentic Commerce(AIが自動で購入を行う仕組み)」の波が迫っている。Visa、Mastercard、PayPal、Googleなどが相次いで対応技術を発表。旅行予約でもAI Agentが人に代わって決済・予約を行う時代が近づいている。

業界はまだ準備不足だが、SabreやStripeなどが支払いインフラを整備中。今後は新たな予約チャネルが爆発的に増えると予測されている。

課題は信頼性とセキュリティ。消費者の信用を得るには、AIに明確な権限設定と支払い情報の管理が必要。とはいえ、中小企業も恩恵を受けられる可能性があり、旅行業界全体に大きな影響を与えると期待されている。

 

Agentic Commerceとは、AIが人間の代わりに自律的に商取引を行う仕組みを指す。旅行分野におけるAgentic Commerceとは、人間の意思を受けたAI Agentが、検索から支払いまでを自律的に完了させる新しい商取引の形をさす。

AI Commerceの具体例としては、GoogleのAgentic Checkout、Gemini in Shopping / Lens / Glasses、VisaのIntelligent Commerce、MastercardのAgent Pay、PayPalのPayPal Agent Toolkit、OpenAI(ChatGPT)のProduct Recovery、StripeのAI Foundation Model for Paymentsなどがある。

 

Agentic Commerceを実行するのが AI Agentとなる。AI Agentは、自律性があり、意思決定を行い、実際の行為を人に代わって実行する。情報検索や意思決定の支援を行うAI Assistantよりは格段に能力が向上している。

(AI Assistantでは、AmazonのAlexaや、AppleのSiriなど、または“xxxのCopilot” が市場に多く出回っている。これらのAI Assistantといえども、技術の進化に伴いAI Agentになりつつある。)

 

AI Agentは、従来の「検索→比較→クリック→予約」のUXを不要にし、消費者がChatGPTやGoogle経由で直接予約する、つまり生成AI経由の販路が増加して、OTAを経由しない購買が増加させることになるという。OTAの「存在感」や「比較(検索)機能」は、AIに吸収される可能性が高いというのだ。

OTAは、自社コンテンツ・在庫をAI Agentと連携できるようAPI経由で開放したり、自ら自社専用のAI Agentを開発したり、直接予約を維持することを考えている。そのほか、AI Agentでも探せない特別オファーや独自商品の提供(例:パッケージ、ローカル体験)に注力している。特別オファーには、ロイヤルティプログラムは当然のこと、Bookingの “コネクテッド・トリップ” も含まれるのだろう。

 

 

そのほか、「1. 未来への飛行:IATA事務総長「テック第一思考」要求、年次総会で」で、事務総長Willie Walshが、デジタル化・データ活用・持続可能性重視」の未来へ進まなければ取り残されると警鐘を鳴らした。年50億人以上の乗客と9.790億ドルの収益を支える航空業界にとって、飛行機や乗客以上に重要なのは、テクノロジーをいかに賢く活用するかだと訴えた。

 

先週の「22. NDC、動的価格、オファー、オーダーによる(まだ実現されていない)顧客の利点」の、航空会社の自分自身のテクノロジー開発遅れの問題については、(この記事を読む限りでは、)なぜか一言も触れられていない。

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6月9日

1. 未来への飛行:IATA事務総長「テック第一思考」要求、年次総会で

2. 旅行者は生成AIによる旅行発見準備できている、世界調査          閲覧数第6位

3. 短いインタビュー:Wakanow の Adebayo Adedeji

4. 旅行業界、エージェンティック・コマース準備整っているか         閲覧数第1位

6月10日

5. 将来はハイブリッド:STRの滞在期間の課題への対応

6. 世代別支出パターン、旅行ブランドの戦略的洞察を明らかにする

7. 2025年トラベルテックのトップ投資家たち                閲覧数第2位

6月11日

8. 旅行 eSIM プロバイダ Kolet、シリーズAで1,000万ドル調達

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6月12日

目次

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6月13日

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​2025年 6月第1週の編集人コメント

今週号では、16. Airbnbの「Services」、ホストにとって不公平なのか? と「22. NDC、動的価格、オファー、オーダーによる(まだ実現されていない)顧客の利点」が面白い。

16. Airbnbの「Services」、ホストにとって不公平なのか?

Airbnbが開始した「Services」は、ゲスト向けにマッサージやシェフなどの追加サービスを提供する新機能だが、ホストには収益が還元されず、リスクと負担だけが増えると批判されている。しかも、サービスはデフォルトで自動適用(オプトアウト方式)されており、ホストの同意がないまま自宅で商業活動が行われる可能性もある。業界関係者は、収益分配、ホストの関与、任意参加の仕組み(オプトイン方式)を求めている。

この問題の根本には、商品開発のプロセスにホストや地域が関与していないことがある。最初から、地元DMOやホストを巻き込んだ商品造成チームの設置が必要だったのではないだろうか。

近年では、「目的地でのTours & Activities(T&A)」が旅行の主軸となりつつある。この記事は、先月のPhocusWire Dailyに掲載された「旅行者はますますパーソナルなT&Aを求めているのに、旅行会社は宿泊や移動手段に偏っている」という指摘を想起させる。

旅の醍醐味は、目的地での体験にある。であれば、中心がホストの家で提供される付帯サービスである必要はない。むしろ、地域全体をフィールドとした広範囲でオーセンティックなT&A商品の開発こそが求められる。

民泊のパイオニアであるAirbnbが、ホテルの付帯サービスを真似るような形で終わってしまうのは残念である。本来あるべき姿に立ち戻り、地域の魅力を活かした競争力あるダイナミックな体験型商品を構築してほしいものだ。

 

22. NDC、動的価格、オファー、オーダーによる(まだ実現されていない)顧客の利点

航空業界が推進するNDCやダイナミックプライシングは、「パーソナライズされた柔軟な旅行体験の実現」を目指して導入が進められてきた。しかし、巨額の投資にもかかわらず、顧客にとっての明確なメリットはほとんど実現されていない。業界がNDCの可能性を真に実現するには、標準化、透明性、顧客中心の設計が不可欠である。さもなければ、NDCは空論に終わり、顧客の信頼を失う危険があると言っている。

 

NDCは、2012年にIATAによって、その仕様が初めて公開された。13年もかかっても、普及率や完成度は部分的にとどまっている。オファーとオーダーを本格的に稼働させるには、さらに少なくとも5年以上はかかるらしい。

こんなテンポでは、加速度的に進化しているAIへの対応ができないのではないだろうか? AIの進化によって、NDC構想自体がレガシーシステムとなって、新たな技術的負債を作りかねない。

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6月2日

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6月4日

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6月6日

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22. NDC、動的価格、オファー、オーダーによる(まだ実現されていない)顧客の利点   閲覧数第5位

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