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11月3日 NEW

目次

1. 地上輸送会社2社、数百万ドル調達

2. AIネイティブ時代、旅行業界がAI駆動会社から学べる事

3. 今どこに居る?Hot 25 Travel Startups for 2025

2025年10月第5週の編集人コメント

8. 3人のイノベーターが語る、再発明、AI、メタサーチの第二幕

かつてオンライン旅行業界を変革したSkyscannerのGareth Williams、WegoのRoss Veitch、Travel.jpのKei Shibataが、シンガポールでメタサーチの過去と未来を語った。Skyscannerは創業者の個人的な不便から生まれ、Wegoは自らOTA機能を持つハイブリッド型へ進化し、Travel.jpはLINE提携など挑戦と試行錯誤を重ねてきた。3人はGoogle依存の限界を認めつつ、AIがもたらす「第2のメタサーチ」に期待を寄せた。AIは旅行者の意図を理解し、真のパーソナルアシスタントとして機能する可能性を秘めていると語り、決済革新やテーマ旅行など新たな価値創造の必要性を示した。彼らは、2045年には旅行が人生の中心、世界最大の産業になると展望する。

しかし、エージェンティックAIの時代には、従来のように「メタで比較し、OTAで予約する」という分業は溶けていくはずだ。AIが情報提示から予約・体験まで一気通貫で担えるようになれば、メタとOTAという産業構造そのものが再定義される。ユーザーにとって重要なのは「どのAIが自分の嗜好・条件・履歴を理解し、信頼できる旅を設計してくれるか」という点に変わる。競争の軸は“Meta vs OTA”から“AI vs AI”へ移行し、企業ブランドではなく、どのAIエージェントがユーザーとの信頼関係を獲得できるかが問われる。旅行流通は「プラットフォームの時代」から「エージェントの時代」へ向かっている。

10. メッセージ受信:旅行業界におけるWhatsAppの役割

この記事でも、この「エージェントの時代」に向かう流れが、WhatsAppを通じて具体的に見えはじめている。ポイントは、SNSが単なる広告や情報拡散の場ではなく、AI旅行エージェントがユーザーと最初につながる“入り口”になりつつあるということだ。

旅行者はもはや検索サイトやOTAにアクセスする前に、日常的に使っているWhatsAppやLINEのようなメッセージアプリ上で旅の相談を始める。そこで交わされる会話は、AIがユーザーの嗜好・履歴・状況を理解するための生きたデータとなり、そのまま提案・予約・変更対応へと接続される。つまりSNSは、情報発信の媒体ではなく、AIが「旅の伴走者」として入り込む生活動線そのものに変わりつつある。

旅行会社やOTAにとって重要なのは、Google検索で顧客を奪い合うことではなく、ユーザーの生活圏であるWhatsAppやLINEの中で、AIが自然に対話を開始し、信頼関係を築けるかどうかだ。ここでも主役はブランドではなく、「どのAIが旅の代理人として選ばれるか」である。SNSはその接点であり、旅行流通の「入口」が再発明されつつある現場なのだ。

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10月27日

1. 今どこにいる? Hot 25 Travel Startups for 2024

2. 1.6兆ドルから1.8兆ドル:2027年世界良好市場成長、シフト、デジタル

3. 銀行と航空の消費者ロイヤルティ戦争継続

10月28日

4. 目的地が異なる:Z世代の旅行計画方法

5. UberとWeRide、サウジでロボタクシー展開

6. トラベルテック起業家Bobby Healy、もし別の人生だったら何を作るか?

10月29日

7. Grab、May Mobility 提携で東南アジアにロボタクシー導入

8. Mews、DataChat 買収でエージェンティックAI導入

9. MakeMyTrip、堅調な国内国際需要とAI更新を報告

10. Booking Holdings、国内増収報告し OpenAI アプリ初期段階考察発表

10月30日

11. 再発明、AI、メタサーチの第二幕に関する3人のイノベーター

12. 旅行管理スペシャリスト Navan が NASDAQ 上場

13. メッセージ受信:旅行業界における WhatsApp の役割

10月31日

14. トラベルテックプロバイダーDCS、Abingdon Software Groupが買収

15. 中東旅行業界:成長とイノベーションで未来を形作る

16. 今週のPhocusWireトラベルテック記事のまとめ

2025年10月第4週の編集人コメント

以下の3つについてコメントしたい。

7. Google、Google MapsにGemini API導入 

8. AI新ゲートキーパー、Booking.comとExpediaの将来旅行ハイジャック方法

16. 米国プロパティマネージャー60%、将来不安なるも収益増加予測

 

 

7. Google、Google MapsにGemini API導入

Googleは、AI搭載のGemini APIにGoogle Maps機能を統合した。これにより開発者は、2億5,000万件以上の地点データを活用し、位置情報に基づく高度なAIアプリを構築できるようになる。GeminiとGoogle Mapsを連携させることで、営業時間・住所・評価などのリアルタイム情報を自然言語で取得でき、Google Searchとの併用によって回答精度も大幅に向上する。

旅行業界関係者からは歓迎の声が多い。Inspire LimitlessのMarc Mekki氏は「Googleが旅行発見・計画のためのAIオペレーティングシステムを構築している」と述べ、MagpieのChristian Watts氏は「Google Mapsは目的地における支配的存在」と指摘。TourpreneurのPeter Syme氏も「Geminiはユーザーの意図や行動を推測できるため、旅行分野で圧倒的優位に立つ」と評価している。

この発表は、OpenAIによるChatGPTのアプリ内アプリ機能(ExpediaやBooking.comが参加)や、ExpediaとPerplexityによるAIブラウザ「Comet」の発表など、旅行×AIの競争が加速する中での動きである。

Gemini APIへのGoogle Maps統合により、Googleが旅行分野で優位に立つのは確かだ。Mapsの2億5,000万件を超える膨大な地理空間データを“Grounding”として活用できる点は、他社にない強みといえる。
ただし、「旅行業界のあらゆる用途」や「ユーザー体験のすべて」において圧倒的に勝っていると断言するには、まだ十分なエビデンスは揃っていないだろう。

 

8. AI新ゲートキーパー、Booking.comとExpediaの将来旅行ハイジャック方法

AI時代の新たな“ゲートキーパー”として、Booking.comとExpediaが旅行業界の主導権を握りつつある。
OpenAIのアプリマーケット開始直後、この2社はChatGPT内に自社機能を統合し、旅行者の検索・比較・予約といったプロセス全体にAIを通じて入り込んでいる。これにより、独立系ホテルはAI経由でゲストへ直接リーチできず、再び手数料を支払って自社顧客へアクセスする構造が再現される懸念がある。

EUのデジタル市場法(DMA)は、GoogleやMetaなど既存の「ゲートキーパー企業」を規制しているが、ChatGPTやGemini、Perplexityといった独立AIアシスタントは対象外である。この抜け穴が放置されれば、少数のAIプラットフォームが旅行流通を独占する可能性が高い。

著者は、

  • AIアシスタントにもDMAと同等の規制を拡張し、

  • ホテルや事業者が、公平に掲載される仕組み(透明な順位表示・データアクセス・切替の自由)を義務化すべきだと主張している。

結論として、「誰がAIのインターフェースを支配するか」が旅行産業の未来を決める。「今行動しなければ、ホテルは再び他社プラットフォームの“借家人”となる」と警鐘を鳴らしている。

 

この記事は冒頭で、「BKNGやEXPEなどの大手グローバルOTAがAI時代においても旅行業界の主導権を握りつつある」と述べている。
従来の記事の多くが、AI時代にはチャネルの多様化や直販の増加によって「OTAの覇権が揺らぐ」と論じてきたのに対し、本稿はそれとは逆の“OTA強者論”を展開している。

筆者は、ホテル・リゾート業界向けにゲストの旅程(guest journey)をホテル自身が直接掌握できるようにするAIインフラ/ダイレクト予約支援プラットフォームを提供するAgentic Hospitalityの共同創立者でありチーフAI オフィサーで、DMAのような規制をAIアシスタントにも適用してほしい立場にある。
そのため、意図的に“OTA優位論”を強調している可能性も否定できない。

 

16. 米国プロパティマネージャー60%、将来不安なるも収益増加予測

米国の短期レンタル(STR)業界では、人手不足や収益圧力など課題が続く中、約60%の物件管理者が2026年に収益の緩やかな成長を見込むと回答した。
Key Dataの調査(約43,000物件・約250名対象)によると、主要課題は運営・人材(73%)と規制対応(43%)であり、特に許可制度の厳格化や宿泊税の上昇が懸念されている。

管理者の優先事項は①運営効率、②マーケティング、③顧客体験、④ポートフォリオ管理、⑤テクノロジーの順であり、95%がPMS(物件管理システム)を導入している。PMSは運営の「中核的インフラ」となっている。

OTA(オンライン旅行代理店)への依存は、「横ばい」が67%、「減らす」が19%、「増やす」が11%。依存度は依然として高いが、拡大傾向は見られない。主要利用先はVrbo(97%)、Airbnb(90%)、Booking.com(73%)。
業界全体としては「拡大より効率化」を重視し、厳しい環境下でも持続的で安定した成長を目指している。

気になったのはOTA依存の部分である。報告書では「OTAへの依存は高いが拡大していない」としつつも、「11%が依存を増やす」としている点から、依然としてOTAの影響力は強いと読める。
一方で「直接予約への多様化が徐々に進んでいる」とも記されており、これは一見矛盾しているように見える。
しかし実際には、OTA依存と直販拡大は対立ではなく“両立期”にあると捉えるのが正確だろう。
OTAは依然として主要チャネルでありながら、AIとデータ分析の活用によって直販チャネルが少しずつ成長している。
現在の流れは“脱OTA”ではなく、“マルチチャネル化”の初期段階にあると見るのが妥当だ。

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10月20日

1. デルタ航空、慎重なNDC・AI導入方針

2. 法人旅行業界、AIをどう考えるべきか

3. 欧州胃委員会ツーリズム戦略がフォーカスする3つの柱

4. Hot 25 Travel Startups for 2023は、今どうしている?

10月21日

5. Phocuswright、2025年Philip C. Wolf記念奨学金受賞者発表

6. Airbnb、Experiences用ソーシャルツール追加とホスト能力更新

7. Google、Google MapsにGemini API導入

8. AI新ゲートキーパー、Booking.comとExpediaの将来旅行ハイジャック方法

10月22日

9. 旅行が最優先ではないとき:経済的負担が消費者行動をどう変えているか

10. Hostelworld、OccasionGenius買収でソーシャル戦略強化

11. Rapid Fire インタビュー:韓国 Yanolja の Jeff Kim

10月23日

12. Grab、第三者提携アプリ導入

13. AI検索予約可能を見据え、

10月24日

14. 今週のPhocusWireトラベルテック記事のまとめ

15. 年末業績押し上げに、ホテル活用の隠れ収益ハック

16. 米国プロパティマネージャー60%、将来不安なるも収益増加予測

17. Trip.com COO Xing Xiong、AI時代を語る

ホテルはライブのChatGPT推進

2025年10月第3週

​​編集人コメントは、お休みさせていただきました。

10月13日

1. AIエージェントが断片化さホスピタリティ技術で不足している理由と、MCPがこれをどのように修正するか

2. 次世代のアジア旅行:信頼、経験、そして来るAIの波

3. 米OTAを進化させる5つのトレンド

10月14日

4. 旅行におけるAI主導コンテンツ作成による収益加速

5. Revolut、Swifty買収でAIコンシェルジュ開発

6. Arbio、3,600万ドル調達で賃貸管理プラットフォーム展開拡大

10月15日

7. アメリカン航空、生成AIツール立上げ

8. Walkway、プレシード165万ドル調達

9. 生成AI、旅行における音声テック再革新10月16日

10月16日

10. Kayak、旅行検索にAIモード展開

11. Mindtrip、旅行インスピレーションと組織のためのAI活用ツール立上げ

12. 航空リーダーたち、小売の進捗状況とAIのユースケース語る10月17日

10月17日

13. 今週のPhocusWireトラベルテック記事のまとめ

14. HotelPort、戦略イニシアティブで150万ドル調達

15. BNPLプロバイダーUpgrade、1億6,500万ドル調達

16. デルタ航空、NDCとAIの慎重な取組み

10月6日の週の1週間、編集人の都合により休刊させていただきました。

2025年9月第5週と10月第1週の編集人コメント

 

「4. AI時代、体験が本物のプロダクト」は、AIが普及し知能そのものが「インフラ」化する時代、競争優位の源泉はもはや技術ではなく「体験」に移っているという論考である。

巨大言語モデル(LLM)はオープン化と低コスト化が進み、差別化は著しく難しくなった。AIが誰でも使える“公共財” ― すなわちコモディティとなる中で、鍵を握るのはユーザーがどう感じ、どんな体験を得られるかである。

優れた体験を生む要素として、著者は次の三点を挙げている。
① インターフェースの進化:ChatGPTやCursorのように、同じ基盤技術でも直感的で使いやすいUIが成功を左右する。

② 記憶によるパーソナライズ:AIがユーザーの嗜好や履歴を学び、先回りして提案する“記憶型UX”が新たな価値を生む。

③ エージェント化:AIが提案だけでなく、予約や購入、スケジュール管理まで自動実行する「行動主体」として進化する。

結論として、これからの時代に勝つのは最良のモデルを持つ企業ではなく、ユーザーに「理解され、支えられ、安心できる」と感じさせる体験を提供できる企業である。

言い換えれば、AI時代の真の“製品”は体験そのものである。

当初、この「テクノロジーが差別化要因ではなくなった」という主張には、正直なところ違和感を覚えた。特に“眠れる30年”を経た日本では、依然として「技術立国の再生」や「イノベーションによる競争力回復」が政策の柱とされており、「技術がコモディティ化した」と言われても簡単には受け入れがたい。

 

しかし再読してみると、著者のR. Kumar(インドの旅行テクノロジー企業Ixigoのグループ共同CEO)が言う「テクノロジーが差別化要因ではない」とは、技術が不要になったという意味ではなく、基盤技術 ― とりわけAIの知能部分 ― が誰でも使える共通インフラとなったという指摘である。

つまりここで言う「技術のコモディティ化」とは、AIという“知能”が電気やインターネットのような汎用インフラに変わったという意味だ。

AIがインフラ化することで、旅行流通の構造は根底から変わり始めている。

かつてOTA(オンライン旅行代理店)やメタサーチは、検索アルゴリズムや在庫接続の最適化によって優位を築いた。しかし、生成AIとエージェントAIの普及によって、その優位は急速に薄れている。AIが旅程設計・予約・決済・サポートを自律的に行う時代において、ユーザーはもはや「どのサイトで予約するか」を意識しない。「どのAIに任せるか」が意思決定の中心になる。

 

この構造変化こそ、PhocusWireが指摘する「体験が新たなモート(防御壁)になる」現象の旅行版である。
すでにHopper、Expedia、Booking.comなどは生成AIを活用したパーソナルアシスタントを実装している。
これらのAIは単なる検索補助ではなく、ユーザーの嗜好・予算・過去の行動を記憶し、“次に何をすべきか”を提案する存在へと進化している。

一方、中国のFliggy(アリババ系)やTrip.com、百度系のErnie Botも、同等レベルのAI機能を自社アプリに統合し、圧倒的なスピードとコスト効率で展開している。

 

AIモデルの性能差が消える中で、勝敗を分けるのは「どの国が、どのプラットフォームが、最もユーザー中心の体験を再設計できるか」である。

将来の旅行者は「検索する」よりも「話しかける」。

「いつ東京に行くのが安い?」と尋ねれば、AIが航空・ホテル・交通・為替・混雑予測を統合し、最適な旅程を提案する。その瞬間、旅行商品の価値は“検索順位”でも“ブランド名”でもなく、会話体験の快適さと信頼性に置き換わる。

 

AIが「旅行流通の顔」となるのだ。

この流れの中で、OTAや航空会社、ホテルチェーンが生き残るためには、「AIを導入する」ことではなく、“AIを介してどんな体験を提供するか”を定義し直す必要がある。予約の効率化ではなく、滞在前後の関係性をどう深めるか。個人の好みをどう記憶し、次の旅へつなげるか。それが新しいロイヤルティ(忠誠心)の源泉になる。

AIコモディティ化の時代、旅行流通の勝者はもはや“最安値を見つける企業”ではない。

 

ユーザーに「自分をわかってくれている」と感じさせる企業である。

AIが知能を提供し、人間が体験を設計する ― その協働こそが、ポストOTA時代の旅行ビジネスを形づくる。

体験設計は、旅行企業の経営戦略の中核そのものになる。すなわち、「パーソナルな旅行体験」を、さらに一歩進めた“ハイパーパーソナルな旅行体験”を、提供できるかどうか ― そこに企業の優勝劣敗がかかっている。

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9月29日

1. Speaker Alert: Bryan Batista of Skyscanner

2. 中東旅行ブームを牽引する7つの強力なシフト

3. TikTok、旅行広告ソリューション立上げ

4. AI時代、体験が本物の商品

9月30日

5. ブランドマーケターが旅行者の進化する考え方に適応する方法

6. ニューヨーク大学 Richie Karabuurun とのクイックQ&A

7. ルフトハンザグループ、AIによる合理化で2030年までに4,000人カット

8. Mews、Flexkeeping 買収でハウスキーピングテック獲得

9. シニア旅行のトレンド - テクノロジーに適応し、コミュニティを見つける

10月1日

10. Speaker Alert: Rob Ransom of Booking Holdings

11. Hospitable、ユーザーと従業員から150満ドル調達動向

12. HTS、旅行販売者向けAI駆動サポートツール追加

13. 第3四半期の旅行新興企業資金調達動向

10月2日

14. クイックQ&A: KayakのPau; Jacobs

15. 航空会社、イノベーション感覚を研ぎ澄ましている

16. テック企業買収 Thoma Bravo、PROS 買収後の計画

17. SEOからGEO、ホテルはデジタル発見の未来に直面

10月3日

18. Speaker Alert: Mark Mahaney of Evercore

19.今週の  PhocusWire のトラベルテック記事のまとめ

20. RateGain、2億5千万ドルでSojern買収

21. Pacaso、高級レンタルの共同所有プラットフォームに7,250万ドル確保

22. ホテルチェーンがAI 戦略で苦労、独立系は早いROI獲得

2025年9月第4週の編集人コメント

 

「4. 旅行におけるデジタルIDとAIの接点を探す」は、デジタルIDとエージェントAIが旅行流通を再構築する鍵であり、業界が生き残るには「オープン化」と「実験的導入」が分岐点になる、と指摘している。AIエージェントが予約・決済・本人確認まで担う未来には、デジタルIDは不可欠のインフラになると考えられる。

 

「11. TSA、テック支援シームレス旅行の数年内実現期待」によれば、TSAもパスポート由来のデジタルIDやバイオメトリクスを導入し、空港で**「IDを取り出さずに通過できる」**未来を描いている。チェックインからセキュリティ通過まで、デジタルID+AIでシームレス化する世界が現実味を帯びてきた。

 

両記事はいずれも「デジタルIDがシームレス体験を実現する鍵」という点で一致しており、旅行全体を通じた コネクテッドトラベルの骨格 が浮かび上がる。欧州委員会の「デジタルIDウォレット(EUDI)」は2026年以降本格展開予定で、身分証明・決済・資格証明をひとつのアプリに統合する。さらにIATAの「One ID」プロジェクトは、搭乗までのプロセスをデジタルIDとバイオメトリクスで置き換える「シームレス・シングル・トークン・トラベル」を目指しており、一部空港での実証が進行中だ。これらはTSAの構想や旅行業界のAI活用と同じ方向にあり、グローバル規模での信頼基盤づくり を加速させている。結論として、「デジタルIDとAIの融合こそ、コネクテッドトラベル実現の核心」 と言える。

 

「15. Sabre、エージェンティックAIソリューションを可能にするAPI立上げ」では、Sabreが初のエージェントAI対応APIを公開し、MCPサーバーを介して航空・ホテル・事後サービスを横断的に接続する仕組みを発表した。想定ユースケースには、不規則運航時の自動リブッキングや、ホテルへの到着遅延通知・朝食リクエスト確認などが挙げられており、これはまさにコネクテッドトラベルの典型といえる。

 

APIとMCPサーバーは、AIエージェントが旅行システムの「言語」を理解し、検索・予約・変更・通知を横断処理する“通訳・接続基盤” (ユニバーサル トランスレーター)として機能する。結果として、旅行代理店が担ってきたリテール・手配代行・顧客サポートの一部はAIによって代替可能となる。特に再予約対応や特別リクエストといったコア業務が自動化されれば、OTAやTMCの役割は大きく変わるだろう。一方で、旅行者の信頼・相談相手や複雑なマルチレッグ旅行の設計といった領域は、引き続き人間(または高度なAIアドバイザー)の強みとして残る。したがってSabreのAPI+MCPは、**「AIエージェントに旅行代理店機能を提供するためのインフラ」**と位置づけられる。今後はOTAやTMCがこの基盤を活用して「人+AIのハイブリッド旅行代理店」へ進化するか、あるいはAIエージェントが直接その役割を置き換えるかが焦点となる。

 

同じMCP関連では「8. Apaleo、MCPサーバー立上げ」がある。ApaleoはホテルのPMS(プロパティ・マネジメント・システム)領域でMCPを実装し、予約変更や在庫確認をAIが自動処理できるようにする。特徴は、中堅・独立系ホテルのIT断片化を標準化し、導入コストを抑えてAI活用を民主化する点にある。Sabreがグローバル流通の標準化を狙うのに対し、Apaleoはホテル内部オペレーションの効率化を追求しており、MCP活用の射程と狙いが異なる。

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9月22日

1. Speaker Alert: Adam Harris of Cloudbeds

2. Direct Travel、ATPI 買収して Avenir 技術 世界展開         検索数第6位

3. Navan、IPOに近づく

4. 旅行におけるデジタルIDとAIの接点を探す              検索数第3位

9月23日

5. 陳腐化ロイヤリティプログラムを復活させる4つの方法

6. 2028年 4,070億ドル、米国法人旅行の新軌跡

7. Royal Caribbean CEO、AI利用オープン

8. Apaleo、MCPサーバー立上げ

9. 近づく波:T&Aのコンソリデーション                検索数第1位

9月24日

10. Speaker Alert: Emma Taylor of Barclays

11. TSA、テック支援シームレス旅行の数年内実現期待

12. APAC旅行パワーハウス:今後20年間の10トレンド

13. Thayer の Hemmeter、SPAC 復活で新旅行ブランド​        検索数第4位

9月25日

14. WeTravel 9,200万ドル調達、複数日旅行オペレーター用AIツール開発

15. Sabre、エージェンティックAIソリューションを可能にするAPI立上げ

16. Fetcherr、AI価格テック世界展開拡大で4,200万ドル調達

17. エージェンティック旅行の未来ためのクリーンなデータを追求する   検索数第2位

9月26日

18. Speaker Alert: Evan Konwiser of American Express Global Business Travel

19. 今週の PhousWire トラベルテック記事のまとめ

20. AIが現代のホテルのゲストジャーニーをどのように再定義しているか

21. GetYourGuide、新しくアップグレードされたパートナー機能発表

22. PROS チーフAI戦略役員 Michael Wu、「AIと航空会社」語る     検索数第5位

2025年9月第3週の編集人コメント

「21. OpenAI会長、旅行AIの未来を語る」

OpenAI会長Bret Taylorは、旅行業界はAIエージェントによって新しい段階に入ったと語った。旅行体験を人間的でパーソナルなものに近づけ、ロイヤルティや顧客価値を高める可能性があるという。

彼自身もChatGPTでヨーロッパ旅行を全て計画し、非常に満足したと述べ、従来の「旅行代理店」はAIに姿を変えつつあると指摘。今後はチャットに加え、音声・マルチモーダル・動画を組み合わせた顧客対応が拡大し、コスト削減とサービス改善を同時に実現できると強調した。

ExpediaやBooking.comなどの仲介業者にとってもAIは顧客接点の新しい形をもたらし、行動変化のスピードに対応できるかが勝負になる。テイラーは「消費者は企業より速く進んでいる。リーダーは果断にこの新世界へ踏み出すべきだ」と結論づけている。

 

この記事を読んで最も印象に残ったのは、OpenAI会長Bret Taylorが語る「AIエージェントが旅行代理店の新しい姿になる」という指摘だった。彼自身がChatGPTで旅行を計画し満足した体験談は、すでに旅行の意思決定にAIが深く入り込んでいる現実を示している。AIが旅行を人間的でパーソナルな体験に近づけ、コスト削減と顧客価値向上を両立できるという展望には大きな可能性を感じた。

一方で、Taylorの発言には「建前」と「本音」のギャップがあるように思えた。彼はOTAやAirbnbもAIで素晴らしい体験をつくれると称賛しているが、これはパートナーを刺激しないためのリップサービスに近い。実際には、AIエージェントが航空会社やホテルと直接つながれば、OTAの仲介価値は薄れ、中抜きリスクが一気に高まる。GoogleのAI ModeやTripadvisorのAIエージェントが示す「ゼロクリック検索」の潮流は、その現実味を裏付けている。

つまりTaylorの本音は「OTAは対応を誤れば中抜きされる」という危機感に近いのではないか。彼が「消費者の変化は企業の意思決定より速い」と強調したのも、そうした裏の意識を反映しているように感じられた。OTAがAIエージェント時代に生き残れるかどうかはまだ不確実であり、旅行業界の未来は一層シビアな競争に突入していくと実感させられる記事だった。

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9月15日

1. Speaker Alert: Frederic Lalonde of Hopper

2. 中国旅行市場1,158億、上昇のない成長

3. TourRadar、ChatGPT と Instagram とMCP 統合の AI Discovery 立上げ

4. Tripadvisor CEO Matt Goldberg、SEOとAIシフト語る         閲覧数第1位

9月16日

5. 理想チャネルミックス形成:全てのホテルタイプ共通5段階

6. ルフトハンザとAmadeus、欧州旅行でデジタルウオレット試験

7. Alltheway、手荷物オペレーティングシステムで350万ユーロ調達

8. 旅行大手と銀行、顧客ロイヤルティをどのように再定義するか       閲覧数第2位

9月17日

9. Speaker Alert: Barry Diller of IAC and Expedia Group

10. ホテルとイノベーション - ゲストとスタッフを中心に保つ

11. 米旅行予約経路、SNSとテクノロジーによってバラバラ

12. STR、占有率と増収を優先事項

13. Airbnb、ホテルのインタフェース立上げ               閲覧数第6位

14. 小さな町、大きなショー:小DMOがインフルエンサーとストーリーテリングでどのように成長するか

​                                   閲覧数第5位

9月18日

15. Lake.com、バケーションレンタル発見プラットフォームで260万ドル調達

16. 旅行者64%、旅行途次情報提供AIアシスタント課金受け入れ

17. AIクラッシュに備えているか?旅行利害関係者が意見         閲覧数第4位 

9月19日

18. Speaker Alert: Jean-Jacques Morin of Accor

19. 今週のPhocusWireのトラベルテック記事のまとめ

20. 新興企業の舞台: Holiwise、AI駆動パーソナライズ旅行提案

21. OpenAI会長、旅行AIの未来を語る                  閲覧数第3位

2025年9月第2週の編集人コメント

9月9日付の記事「7. 旅行買物客の Google AI Mode 使用方法調査」は非常に示唆的だった。これは米国の42名を対象に、マーケティング会社Propellicが旅行者のAIモード利用実態とその影響を分析した調査報告である。

 

予想した通り、AI検索の威力は物凄く、Google Modeの評判もすこぶる良いようだ。

この調査によれば、Google AI Modeは、調査参加者たちから高く評価され、信頼性についても平均4.3/5以上と、ChatGPTなど他の生成AIツールを上回る水準が確認されたという。予約導線ではOTA経由よりも宿泊施設や事業者の直販サイトに向かう割合が56%と過半を占め、OTAは生成AI向けの最適化(GEO)を迫られている。

 

検索の主流は明らかにキーワードから会話型へ、SEOからGEOへと移りつつある。AI検索の時代には、「えージェンティック AIに拾われなければ商売が成り立たない」とさえ言われる。影響を受けるのはOTAばかりではない。AI検索はLLMを駆使した新しい形のメタサーチとも捉えられ、既存のメタサーチだって、このままでは、やがて取って代わられる可能性がある。

OTAもメタサーチも「AI検索新時代」への対応を迫られている。

 

これは既存企業のビジネスモデルを揺さぶる創造的破壊、すなわちゲームチェンジをもたらすだろう。これまでの競争軸が「ブランド認知」や「露出確保」であったのに対し、AI時代にはユーザーがブランド名を検索しなくてもAIが最適解を導き出す。つまり、「AIに推薦されるか否か」が企業の生死を分ける時代が到来する。

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9月8日​

1. Speaker Alert: Clara Liang at The Phocuswright Conference

2. ホスピタリティテックの DigitalGuest と Chicostay 合併

3. 新興企業の舞台:StayNow、旅行計画の簡易化望む            検索数第6位

4. OTAs、ソーシャルとAIチャネルに高い期待 ― 第2四半期販売コスト50億ドル超   検索数第2位

9月9日​

5. 豪州・NZ旅行市場、旅客ではなく価格で成長

6. Understory、120万ユーロ調達で体験プロバイダー自動化支援

7. 旅行買物客の Google AI Mode 使用方法調査               検索数第1位

9月10日

8. Speaker Alert: David Hoctor at The Phocuswright Conference 

9. 自動化の未来を解き放つ:APIによる自律流通強化策

10. 航空会社アンシラリー収入新記録、新たな収入源に傾く

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2025年9月第1週の編集人コメント

 

「7. エージェント的AI、Look-to-Book率の迫り来る急成長」の読後感想

航空券販売におけるLook-to-Book比率(L2B)は、1990年代には10対1程度で推移していたが、直販サイトやメタサーチ、OTAの普及、さらにNDCやAPIによる動的運賃やパーソナライズ化の浸透によって、現在は20,000:1にまで悪化している。記事では、今後AIエージェントの普及によって、ユーザーに代わってAIが大量の検索を繰り返すようになり、その比率は年内にも200,000:1を超える可能性があると指摘している。こうした状況はシステム負荷やコスト増大を招くため、旅行業界にとって深刻な課題となる。

 

もっとも、AIは問題であると同時に解決策にもなり得る。キャッシュの自動最適化や機械学習による検索ノイズの削減などに期待が寄せられる一方、AIトラフィックをどのように識別し、必要に応じて課金や制御を行うのかという議論も始まっている。Cloudflareによる「pay per crawl」の構想や、AIボット向けにアクセス範囲を明示する「llms.txt」といった提案もその一例である。結局のところ、AIによる検索の爆発は避けられず、旅行企業は新しい常態に備えてコスト管理と効率化の両面で戦略を立てる必要がある。

 

この記事を読んで感じたのは、旅行企業がこの「検索爆発」の受け手であると同時に、その出し手でもあるという二面性である。たとえば、OTAやメタサーチはユーザー体験を高めるために他社のAPIを大量に叩くが、自社の在庫やコンテンツもまた別のプレイヤーやAIエージェントから同様に叩かれる。

つまり同じ企業内であっても、利益を追求する部門とコストを負担する部門が分かれ、調整が難しくなる。また業界全体に目を向ければ、「他社より多く検索すれば有利になる」という発想が各社に広がり、APIリクエストが雪だるま式に増える結果、システム負荷とコストだけが膨張し、予約効率はほとんど変わらないという“囚人のジレンマ”に陥りかねない。

 

さらに、供給者と流通者の間の摩擦も避けられない。航空会社は過剰な検索による負担を嫌って制限やペナルティを導入する一方、OTAは比較が制限されればサービス価値が損なわれるとして反発する。実際にユナイテッド航空が、検索過多の代理店に対してペナルティを導入した事例も報告されている。しかも旅行企業は、自らAI旅行アシスタントを導入して「自動で最適なプランを探す」と謳いながら、同時に他社のAIから大量アクセスを受けるという自己矛盾を抱える。加害者であり被害者でもある状況は、今後さらに加速していくだろう。

 

このような行き詰まりを打開するためには、業界全体での標準化が必要となる。llms.txtのようにAIボットのアクセス範囲を明確にし、Cloudflareのpay per crawlやNDCのペナルティモデルのように「叩いた分だけ払う」仕組みを整えることが求められる。また、AI自身を活用して不要なリクエストを抑制し、本当に必要な検索だけを実行するようなノイズ削減の工夫も重要だ。ただし、こうした施策が十分に機能する前に、検索合戦が激化し、コスト爆発やパートナー関係の悪化が先に進行する可能性は否定できない。

 

結論として、旅行企業は「検索の爆発を引き起こす攻めの立場」と「検索爆発にさらされる守りの立場」を同時に抱えており、この二面性が業界全体のコスト膨張やパートナー摩擦を引き起こす根本原因となっている。今後の旅行流通における最大の課題は、この二面性をどう調整するかにあり、ルール化や課金モデルの整備、さらにはAIを活用した効率化によって新しい均衡を見いだせるかが問われている。

 

(注)Look-to-Book比率は、分母が検索回数であり分子が予約数となる。コンバージョン率は、分母がユーザー訪問者数(大抵はセッション数)であり分子が予約数となる。両者は似ているようで異なる。L2B比率が低下したとしても、コンバージョンは不変となる。

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