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2024年 11月第4週 の 編集人コメント

 

「1. 次の4年、旅行テクノロジー業界は明るい見通し」では、米国Travel Tech Associationの社長兼CEOが、次期米大統領Donald Trumpの「アメリカ産業とイノベーションの潜在能力を完全に引き出す」という約束に希望を感じていると言っている。Googleの反競争的な態度について、次期政権は厳しく対応するとみられているという。

 

Googleに対する欧米競争監視当局の規制の状況について、ChatGPT-4oからの回答は次の通りとなった。

 

米国におけるGoogleの反競争的事業に対する規制は、特に2020年代に入ってから活発化している。

 

2010年~          欧州委員会によるアンチトラスト調査開始

欧州委員会がGoogleの市場支配力や検索アルゴリズムの公平性について調査を開始。 |

2017年6月    ショッピングサービスに対する罰金

Googleが自社のショッピング比較サービスを不当に優遇したとして、欧州委員会が約43億ユーロの罰金を科す。

2017年7月      Androidに対する罰金

Android OSにおいて、Googleが自社アプリケーションを搭載端末に強制するなどの不公正な取引慣行を行ったとして、約24億ユーロの罰金が科せられる。

2020年            米国で独占禁止法違反の訴訟提起

米国司法省および一部の州が、Googleのプラットフォーム支配力や広告市場における独占的行動を巡って、独占禁止法違反で訴訟を起こす。

2021~2023年  世界各国で規制強化の動向

欧米を中心に、デジタル市場におけるプラットフォーム独占やアルゴリズムの透明性、プライバシー保護などを巡り、各国で規制強化や法整備の動きが進展中。

 

今後の進展から目が離せない。

 

このほか、今週では「8. 旅行業界のベテランErick  Blachfordが語る、技術革命に直面する旅行起業家へのヒント」が印象に残った。

旅行投資家であり、元Expedia Group CEOが、AIが旅行業界を変革する中、起業家に「今こそAIの活用に飛び込むべき」と語っている。彼は現在のAIの革新を、1990年代初頭のインターネットの黎明期に例え、AIツールの実験や導入を怠らないことの重要性を強調している。

過去に旅行代理店がオンライン移行に消極的だった例を挙げ、進化を無視するリスクを指摘。「AIは止められない魔神のような存在だ」と述べつつ、柔軟な姿勢で変化に対応することの重要性を訴えた。その一方で、特に、現在の不確実な環境下で一つのアイデアに固執しすぎることの危険性についても警告している。

 また、彼は気候変動が旅行業界に与える影響についても言及し、炭素排出量規制が旅行コストや訪問可能な地域に制約を与える可能性を懸念。しかし、AIを活用が解決策を生み出す希望があると述べ、技術革新が持つ未来への可能性を示している。

 

日本の旅行業界は、オンライン化で随分と出遅れた経験がある。AI化にも乗り遅れるようなことがあっては大変だ。

 

編集人は、2012年から2018年に至るまで、隔年で「日本のオンライン旅行市場調査」を編集した。その過程で、旅行代理店の販売データの収集に大きな困難を感じた。日本では上場している旅行代理店が限られており、開示データが非常に少ない。そのため、市場規模の算定には、直接の企業訪問による聞き取り調査*と、関連データの積み上げによる推定が不可欠だった。  

*実際、毎回50数社を訪問した。4回発行したので、延べ200社以上を訪問したことになる。

観光庁が毎月発表する「主要旅行業者の旅行取扱状況」調査では、40数社の取扱高が追跡されている。しかし、この統計には、主要OTAの「楽天トラベル」や「じゃらんnet」が含まれておらず、また、各TTAで現在の主要な販売チャネルであるオンライン販売の取扱高が明示されていない。また、日本全国に約1万2,000社ある旅行業者[上4] [HU5] のうち、ごく一部しか対象とされておらず、市場全体の実態を十分に反映しているとは言い難い。  

大手をはじめ主要な旅行業者動向を把握すれば全体像を捉えることができると考える向きもある。しかし、その販売額すら正確に推定されていない以上、この考え方には無理がある。  

 

このような状況では、日本の旅行業界における産業分析や市場動向の把握が難しくなるだけでなく、旅行業者各社がベンチマーキングを行い、戦略的な意思決定をする上でも大きな課題となるのではないだろうか。

 

PhocusWire Dailyの記事では、パーソナライズされた旅行提案には旅行者の「データ」が不可欠であることが強調されている。記事内では「データ」という言葉が繰り返し登場し、旅行者は、自分だけの特別な旅行体験を求めるためには、個人情報(データ)の提供を厭わないと指摘されている。大規模言語モデル(LLM)も膨大なテキストデータを学習することで進化し、現在話題の AI エージェントも LLM を応用している。優れたエージェントを開発するには、大規模なデータを収集し、学習させることが不可欠である。しかし、日本の旅行業界には十分なデータが存在せず、その先行きは厳しいものとなるだろう。

 

米国でも旅行代理店のデータはあまり公表されていない。しかし、多くの企業が上場していることに加え、旅行流通専門調査機関である Phocuswright が「U.S. Travel Agency Landscape 2024」などレポートを定期的に発行している。また、Travel Weekly も毎年、米国の旅行代理店売上ランキング「Power List*」を発表している。これらを考慮すると、日本の状況よりははるかに透明性が高いといえる。

*この「Power List」は、年間売り上げ1.1億ドル以上の72社をリストしている。38位にはJTB Americas Groupが、57位にはKintetsu International Express (U.S.A.)が顔を出す。

トラベルジャーナルの2024年6月17日号「ツーリズムの現在地と未来」には、ツーリズム産業のキーパーソン90人に、「ツーリズム産業の未来(2030年)の展望」を聞いている。興味深いことに、編集人のコメントとは正反対に、86.7%が明るい展望を抱いている。「21世紀の成長産業といわれるだけの地位を確立できていると思うか」との問いに対しては、75.6%が「そう思う」と回答している。

一方で、編集人のコメントは主に旅行代理店を対象にしており、アンケート結果の「ツーリズム産業全体」とは視点が異なる。そのため、直接比較するのは難しいかもしれない。しかし、アンケートの回答者の中にも旅行代理店の人たちも存在しているはずだ。そして、もし旅行代理店が市場の変化に適応できなければ、「ツーリズム産業全体の成長」とは裏腹に、旅行代理店は取り残されてしまう可能性がある。この状況を楽観視しすぎるのは危険であり、「ゆでガエル」にならないためにも、対策が求められるのではないだろうか。

 

(この週のコメントとは全く関係ないが)トラベルジャーナルが2025年3月31日号をもって休刊した。61年間にわたり3,447号を発行してきた、日本最大の週刊旅行業界誌が姿を消すとは、誠に残念でならない。活字離れが進んでいるとはいえ、そもそも旅行業界全体の情報収集に対する姿勢には大きな問題がある。「情報はただ」と考えてはいないか。インテレクチュアル・プロパティ(知的財産)に対する意識が欠如しているのではないか。トラベルジャーナルの休刊により、業界全体の情報収集力のさらなる低下が懸念される。もっと高いアンテナを張る必要はないのか。(2025年4月追記)

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