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6月 第2週 の 編集人コメント

 残っているキーワード「コネクテッド」を解説したい。

 

「コネクテッド(Connected)」という言葉は、単に「つながっている」というだけでなく、「シームレスに統合され、スムーズに連携している」というニュアンスを持つ。  

Booking.comは、「コネクテッドトリップ」戦略を掲げ、旅行のすべての要素を一つのプラットフォームで統合・最適化することを目指している。  

 

現在、旅行者は以下のようなバラバラのサービスを、自身で一つの旅程に組み合わせる必要がある。  

  1. フライト      航空会社やSkyscannerで検索・予約

  2. 宿泊             Booking.comやAirbnbで検索・予約

  3. 交通手段      Uber、レンタカー、電車などを個別に手配

  4. 観光・体験   ViatorやKlookで予約

  5. レストラン   Google Mapsや食べログで探す  

 

ここでは外国旅行ブランドを羅列したが、もちろん、日本でも、楽天トラベル、じゃらん.netという大手OTA2社をはじめ、アソビュー、ベルトラ、ena(イーナ)、オープンドア(トラベルコ)など多くのオンライン旅行サイトが存在する。

 

コネクテッドトリップでは、このバラバラな旅行素材を1つのアプリでシームレスに予約管理できるようにしてくれる。例えば、フライトの遅延が発生すれば、旅先のホテルのチェックインや、会議の時間を自動調整して新たに提案する。そして、パーソナライズされた旅行体験のために、過去の旅行データから、おすすめの体験や飲食店までも提案してくれる。

 

話は単純だが、コネクテッドトリップを実現するのは簡単ではない。以下のような問題や課題が山積している。

  • データの統合が難しい

     - 航空会社、ホテル、レンタカー、現地ツアーなどの異なるシステムを統合するのは非常に難し            い。

     - それぞれの企業が独自のデータフォーマットを持っており、API連携が必須となる。

  • 業界間の競争・利害関係の調整が難しい

     - 例えば、航空会社はGoogleやBooking.comにデータを提供することで、自社の直販チャネルが.        弱まることを懸念している。

     - 旅行プラットフォーム間の競争が激しく、データ共有に非協力的な企業も多い。

  • 規制・データプライバシーの問題

     - ヨーロッパのGDPR(⼀般データ保護規則)や米カリフォルニア州のCCPA(消費者プライバ.           シー法)などの規制により、個人データの取り扱いが厳しくなっている。

      - ユーザーがどこまでデータ共有に同意するかが重要なポイントとなる。

  • ユーザーの習慣を変えるのが難しい

     - 多くの人は、航空券はSkyscanner、ホテルはBooking.com、移動はUberというように、用途.         ごとに使うサービスが決まっている。

     - すべてを「コネクテッド」にしても、ユーザーが便利だと感じなければ普及しない。

  • リアルタイム対応の課題

- 例えば、飛行機が遅延した場合、ホテルのチェックインや空港送迎の時間を自動調整するには、リアルタイムデータの連携が必須。

- しかし、現在の旅行業界のシステムはリアルタイム更新に対応していないことが多い。

 

完全なコネクテッドトリップの実現には、このような技術的・業界的な障害がある。しかしながら、AIやAPI連携が進化すれば徐々に実現可能になっていくだろう。

 

有望なトレンドとして、Booking.comが掲げる「コネクテッドトリップ」戦略以外にも、Google TravelやExpediaなどもコネクテッドトリップを進めている。TripGenie, Roam AroundなどAI旅行プランナーが登場し、個別予約から一括予約の流れにシフトし始めている

 

コネクテッドトリップは「未来の標準」になりうるか? 短期的には難しい。だが、長期的には主流になっていく可能性が高いと考える。まずは航空券 + ホテル + 移動の統合から始まり、徐々に「体験・レストラン・保険」などが加わっていくだろう。

Google、Booking.com、Expedia、Airbnb など大手が、どれだけ業界全体を巻き込めるかがカギとなりそうだ。

 

自動車業界では、CASE*という新たな潮流の一環で、コネクテッドカー(インターネットとつながる車)の開発が進んでいる。

*Connected、Autonomous(自律運転)、Shared(共有)、Electric(電動化)

 C(Connected)は、自動車に通信機器やセンサーが搭載されIoT化が進み、車や周辺の状況、道路状況など取得したデータを、インターネットを介して活用していくものだ。当然、ドライブ旅行で、目的地の体験(エクスペリエンス)情報も、コネクテッドされることになる。つまり、コネクテッドトリップには、マイカーもコネクテッドされるというわけだ。

 

コネクテッドトリップの実現には、前述の通りの問題や課題が山積している。

しかし、繰り返しになってしまうが、もう一度、以下の点を考慮すると、コネクテッドトリップの重要性は今後さらに高まると考えられる。

  1. トラベルテックの進化により、ファンネルの各段階でのキュレーションが機械化・自動化によって強化・充実されつつある。

  2. サプライヤーや仲介業者など旅行代理店間、あるいは異業種との間でも、提携が同時並行的に拡大している。

  3. これらの提携によって、旅行のエコシステムが強化されている。

 こうした動きを踏まえると、コネクテッドトリップのアプローチは、旅行者の利便性を向上させ、より一貫した体験を提供する手段として、ますます重要になっていくだろう。

 

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